「順位は落ちていないのに、AIの回答には他社しか出てこない」。この落差をつくっているのが、クエリファンアウトという仕組みです。

AIは受け取った質問をそのまま検索せず、複数の細かい検索に分けて調べ、その結果を1つの回答にまとめています。 そのため見られているのは、1つのキーワードでの順位ではなく、分かれた1つ1つの問いに答えられているかどうかです。

この記事では、仕組み、変わる評価の単位、自社の現状を確かめる手順の3つを扱います。なお本記事は生成AIの検索についての話で、半導体の製造工程やSNSの配信設計で使われる同じ名前の用語とは別の概念として切り分けます。

なぜ検索1位の自社ページはAIの回答に引用されないのか

この症状は「自社名を出して聞けば説明されるのに、自社名を出さずに聞くと出てこない」という形で現れます。「社名を入れて聞けば正しく説明されるんです。でも『◯◯のおすすめは?』だと名前も出ません」という相談が増えました。見込み客の多くは、そもそも自社名を知らない状態でAIに聞きます。実務では、社名を出さない質問での見え方を本番と見ています。

背景には、AIに聞く人がこの1年で一気に増えたことがあります。全国15〜69歳のうち生成AIを使う人は51%で、1年前の27%からほぼ倍増しました(NTTドコモ モバイル社会研究所「生成AI利用率、過半数に。1年で急増」、2026年4月)。さらに、検索結果に出るAIの要約だけで満足してリンクを開くのをやめることがある人は、生成AI利用者の64%でした(同研究所「6割超がAI要約で検索完結」、2026年2月)。つまり、AIの回答に名前が出なければ、そもそも比較検討の入口に立てない場面が増えています。

私たちは、AIの回答を継続的に取得して可視化するツールをつくっている株式会社AI Hackです。実務では、自社名を出さない質問を複数のAIサービスで繰り返し投げ、どの問いで名前が出ているかを分解して見ています。

原因はシンプルです。AI検索は、入力された文章をそのまま検索していません。

クエリファンアウト:AIが1つの質問を複数の検索に分けて調べる仕組み

クエリファンアウトとは、1つの質問を複数の関連する検索に分けて同時に実行し、集めた結果を1つの回答にまとめる仕組みです。たとえば「AI検索の対策は何をすればいい?」と聞かれたAIは、相場を調べる検索、手法を調べる検索、他社事例を調べる検索、注意点を調べる検索、と手分けして調べます。人が数回に分けて検索していた作業を、AIが裏側で一度にやっている状態です。

「fan-out=扇状に広がる」という言葉の意味

fan-out は「扇状に広がる」という意味の英語です。1つの質問が扇の骨のように複数の検索へ広がる様子から、この名前が付いています。入力は1本、そこから出ていく検索は複数、という点だけ覚えておけば十分です。

GoogleがAIによる概要とAIモードについて公式に説明している範囲

この仕組みは、Googleが公式ドキュメントで説明しています。検索結果の上部に出るAIの要約(AIによる概要)と、検索を対話形式で行える機能(AIモード)の両方が、サブトピックやデータ源をまたいで複数の関連検索を出す「クエリファンアウト」を使う場合があると書かれています(Google検索セントラル「AI features and your website」、2026年9月時点)。同じ説明では、回答を生成する途中でモデルが追加の参照ページを見つけるため、通常の検索より幅広く多様なリンクが示されるとも述べられています。表示される参照リンクの顔ぶれが検索結果の上位10本と一致しないのは、このためです。

Googleが公開した生成AI機能向けの最適化ガイドでも、クエリファンアウトを「モデルがより多くの情報を求めて同時に出す関連クエリのまとまり」、RAGを「関連性の高い最新のページを取得して回答の品質や正確性を高める手法」と説明し、前者は何を検索するかを広げる側、後者は取得したページを根拠に回答を組み立てる側だと整理されています(GMO TECH「クエリファンアウトとは?仕組みとAI検索に引用される記事の作り方」、2026年9月時点で確認)。検索する範囲を広げる部品と、集めた材料で文章を書く部品が別にある、と考えると分かりやすいはずです。

回答ができるまでの4ステップ

AIが回答を作る順序は、意図の読み分け、同時検索、該当部分の集約、1つの回答への束ね、の4つに分かれます。

  1. 質問の意図をいくつかに読み分ける。「おすすめは?」の裏にある予算や規模の条件まで、AIが先に想像する段階です。
  2. 分けた問いを同時に検索する。1本ずつ順番に調べるのではなく、並行して投げられます。
  3. ページ全体ではなく、その問いに答えている部分を集める。見出しと結論の置き場所が効いてくるのはここです。
  4. 1つの回答文と参照リンクに束ねる。読者の画面に出るのは、この最後の1枚だけです。

担当者が自分の手で効かせやすいのは3番目だと見ています。次の図は、入力が1つでも調べ物は複数に増え、最後にまた1つへ戻るまでの順番を並べたものです。

1つの質問が複数の検索に分かれ、1つの回答と引用リンクにまとまるまで

「クエリ・ファンアウト」「query fan-out」はどれも同じ仕組みの呼び方

記事や資料によって、クエリ・ファンアウト、query fan-out、ファンアウトクエリと表記が揺れます。指している中身は同じで、1つの質問が複数の検索に分かれる仕組みを表します。社内で用語を統一するときは、どれか1つに決めれば足ります。

なお、商用のAIサービスは内部の処理を公開していません。ここまでの説明は、公式の記述と外から観察できる挙動にもとづくもので、内部の処理をそのまま再現したものではありません。

「業務用コーヒーマシン おすすめ」はどんな細かい問いに分かれるのか

1つの質問は、定義、比較、条件、不安、評判といった別々の問いに分かれます。ここでは、法人向け商材を例に、実際に投げられそうな検索の言葉まで書き出します。分解の型は次の5つです。

  1. 定義:何を指すのかを確かめる問い。「業務用コーヒーマシンとは 家庭用との違い」のような検索です。
  2. 比較:他社との違いを知る問い。「業務用コーヒーマシン メーカー 比較」がこれに当たります。
  3. 条件付き:価格帯・台数・地域で絞る問い。「オフィス50人 コーヒーマシン 費用 月額」のように、条件が付きます。
  4. 不安:契約後の心配を確かめる問い。「業務用コーヒーマシン 保守 解約」のような、売り手が書きたがらない話です。
  5. 評判:使った人の声を探す問い。「業務用コーヒーマシン 導入 口コミ」で、第三者の記述が集められます。

自社サイトが5つのうち2つしか答えていなければ、残り3つは他社のページで埋まります。回答文に並ぶ社名が他社ばかりになるのは、この積み上げの結果です。

分かれる本数はAIサービスごとに違います。2026年4月1日から21日までに集めた500万件のファンアウトを分析した調査では、1つの質問あたりの平均本数はPerplexityが1.4本、ChatGPTが2.1本、Grokが6.8本でした(Peec AI「Patterns we see in ChatGPT query fanouts」、2026年5月)。少ない側は元の質問をほぼそのまま調べ、多い側は調査メモのように角度を変えて調べる、という違いです。

同じ調査では、ChatGPTが検索の言葉に今年の西暦を足す割合は5.44%で、ブランド名や比較、レビューといった語を自分で足して検索する傾向も報告されています。ユーザーが打っていない言葉が検索に足されるため、自社ページが「比較」や「口コミ」の語を含む問いに答えられているかが効いてきます。

実務では、拾われる単位はページ全体ではなく、その問いに答えている見出しと数段落だと考えて設計しています。1本の記事で5つの型すべてに触れるより、型ごとに答えの場所がはっきり分かる状態を作るほうが早いはずです。

従来のキーワードSEOとクエリファンアウト時代のAI検索を5つの軸で比較する

変わったのは検索の技術ではなく、評価される単位と、担当者が見るべき数字です。次の表は、入力から指標までを5つの軸で並べたものです。左右で「何が同じで何が違うか」を見てください。

比較軸

従来のキーワードSEO

クエリファンアウト時代のAI検索

ユーザーの入力

短いキーワード

会話に近い長い質問

検索側の処理

1つの質問に順位を付ける

複数の検索に分けて同時に実行し、結果を統合する

表示される結果

リンクの一覧

1つの回答文と数本の参照リンク

評価される単位

ページ単位

ページ内の該当箇所単位

担当者が見る指標

検索順位・クリック率

回答に名前が出た割合・引用元に自社サイトが出た割合など

要点は、入口が広がって出口が狭くなったことです。既存のSEOの資産がある会社は左側を捨てる必要はなく、右側の指標を足すだけで判断材料が増えます。一方で、順位だけを追っている状態では、AIの回答での不在に気づけません。

見る数字はこう読み替えます。AIの回答に自社名が出た割合(言及率)、回答の引用元として自社サイトが出た割合(引用率)、回答内での並び順(推奨順位)、カテゴリ内の全言及に占める自社の割合(言及シェア)の4つです。検索順位とクリック率は、このうちどれ1つも代わりにはなりません。私たちは、検索順位とAIの回答での見え方は、別のレポートとして並べて見るべきだと考えています。

次の図は、同じ質問が従来の検索とAI検索でどう別の道を通るかを対比したものです。

従来の検索とAI検索で、結果の出方がどう違うか

なお、AI向けだけの別作業が必要になったわけではありません。Googleの最適化ガイドについては、生成AI機能に向けた最適化であっても既存のSEOのベストプラクティスを書き直す必要はないというのがGoogleの立場だと整理されています(海外SEO情報ブログ「生成AI検索の最適化ベストプラクティスをGoogleが公開、SEOの本質は変わらず」、2026年5月)。

分解された問いに拾われるための打ち手を、コストと効果の出方で選ぶ

打ち手は6つに整理できます。表は「今日できるか」と「効き方の大きさ」がずれることを見るためのものです。

打ち手

すぐ自分で着手できるか

効果の出方

向いている場面

限界

(a) 1テーマを記事群で網羅する

時間がかかる

ゆっくり大きい

主要テーマで名前が出ない

本数を増やすだけでは効かない

(b) 問い単位の見出しと結論先行の書き方

できる

早いが中程度

既存記事の改善から始めたい

中身が同じなら順番を変えても変わらない

(c) 表や箇条書きで抜き出しやすくする

できる

小さい

長文で要点が埋もれている

形式を整えるだけでは引用は増えない

(d) 価格や調査など自社しかない情報の公開

一部できる

大きい

他社と説明が横並び

公開できる範囲に制約がある

(e) 第三者メディアや比較サイトでの言及獲得

時間がかかる

遅く大きい

カテゴリ内で名前が挙がらない

自社で完全には決められない

(f) AI検索での引用状況の観測

できる

判断材料が増える

どこから直すか決められない

エンジンや時期で結果が動く

一つひとつの進め方は本記事では扱わず、ここでは選ぶ順番だけを示します。今日から自分の手で動かせるのは(b)と(c)、効き方が大きいのは(a)と(d)、時間がかかるのが(e)、判断のために先に必要なのが(f)です。私たちは、(f)の観測を最初に置く順番が実務に合っていると考えています。どの問いで負けているか分からないまま(a)から始めると、すでに勝っているテーマを厚くして終わることがあるためです。実務では、この観測結果を見てから、外部での言及、サイト内の記述、公開する情報の中身のどれから手を付けるかを決めています。

注意点が2つあります。1つは(c)で、表や箇条書きや構造化データを足せば引用が増える、という関係は確認されていません。抜き出しやすさの整備として位置づけ、効果はそれ以上に見積もらないほうが安全です。もう1つは(a)の進め方で、分解後の問いを狙ってページを大量生産したり、内容の少し違うバリエーションを作ったりする行為は、Googleのスケールされたコンテンツ乱用のスパムポリシーに該当すると整理されています(先ほどの海外SEO情報ブログの解説)。1テーマを深く書くことと、問いの数だけ薄いページを作ることは別物です。

クエリファンアウト対策が効かない場面と、担当者が陥りやすい誤解

この分野は、次の3つの誤解でつまずく人が多いです。

誤解1:同義語やかな表記を広げるキーワード拡張と同じもの

違います。キーワード拡張は「業務用 コーヒーマシン」を「オフィス コーヒーメーカー」と言い換える作業で、問いの中身は1つのままです。クエリファンアウトは、定義・比較・条件・不安・評判のように問いそのものを割ります。言い換えを増やしても、答えていない問いは埋まりません。

誤解2:分解された検索は全部あとから確認できる

AIが実際に走らせた検索を、外から全量確認する手段はありません。ChatGPTやPerplexityは実行した検索の一部を画面に出す場合があり、分解された問い自体はユーザーに見えず、最終的な回答だけが表示されるのが基本です。分析ツールでも取得できますが、回答と一緒に返ってくる分だけが表示され、多くの場合は1つの質問あたり2本程度で、実際にAIが使った本数はそれより多いことがあると説明されています(Ahrefsヘルプセンター「How to view fanout queries generated by AI」、2026年9月時点)。見えるのは断片なので、確認できた問いを手がかりに、自社が答えていない型を探すのが現実的な使い方です。加えて、AIの回答は同じ質問でも揺れます。実務では、1回の結果で良し悪しを決めず、同じ質問を複数のAIサービスで何度も繰り返し、平均とばらつきの幅で見ています。

誤解3:対策すれば検索順位も自動で上がる

直結はしません。順位はページ単位の評価、AIの回答での扱いはページ内の該当箇所の評価で、見られている単位が違います。逆方向も同じで、順位が下がっていないことは、AIの回答に出ている証拠にはなりません。

まとめ:自社の名前を出さずに聞くところから始める

AIは1つの質問を複数の細かい検索に分けて調べ、結果を1つの回答にまとめます。だから評価の単位は、キーワードでの順位ではなく、分かれた問いに答えている箇所があるかどうかです。最初の一歩は、自社名を伏せた質問を3本から5本作って各AIに聞き、名前が出てこない問いを書き出し、その問いに答える見出しをページに足すことです。私たちは、ここから始めるのが一番早いと考えています。自社がAI検索でどう扱われているかを確かめたい場合は、株式会社AI Hackで相談を受け付けています。