自社の商品名を出さずに「一人暮らし向けの電気ケトルでおすすめは?」とAIに聞いたら、並んだのは競合ばかりだった。そんな場面が増えています。エージェンティックコマースとは、買い手本人ではなくAIが要望を受け取り、商品を探し、比べ、購入の手続きまで進める買い方のことです。これまでは人が検索し、比べて、自分でカートに入れていました。これからは「予算2万円で出張用のスーツケースを」と頼むだけで、AIが候補を集めて絞り込み、手続きまで進めます。買い物の入口が、検索結果のページからAIとの会話へ移りつつある、という話だと考えてください。

AIの回答の中で自社がどう扱われるかを整える取り組みは、AIO(AI Optimization)のほか、LLMO(大規模言語モデル最適化)、GEO(生成エンジン最適化)、AEO(回答エンジン最適化)とも呼ばれます。本メディアではこれらを総称して「AIO」と表記します。

ChatGPTに「おすすめは?」と聞くと競合ばかり出てくるのはなぜか

検索順位では負けていないのに、AIの回答には自社が出てこない。この状態は、順位表を眺めているだけでは気づけません。順位を測る道具は「検索結果の何番目か」を見ますが、AIの回答文の中に自社の名前があるかどうかは別の話だからです。

変化の大きさは数字にも出ています。2025年の11月から12月に生成AIから米国の小売サイトへの訪問は、前年の同じ時期と比べて693%増えました(アドビ「アドビ調査:AI経由のトラフィックが全業界で急増、最大の伸びは小売業界」、2026年1月)。前年の水準を1とすると、約8倍です。

しかも、AI経由の訪問は「見るだけ」で終わっていません。Adobe Analyticsの2026年7月までのデータでは、AIを起点に米国のECサイトを訪れた人は、それ以外の経路の人より1回の訪問あたりの売上が53%高く、購入に至る割合も60%高いという結果が出ています(ネットショップ担当者フォーラム「『AI経由の買い物客』は非AIよりもCVRは6割、購買力は53%高い」、2026年8月)。数は少なくても、買う気の強い人が来ている、と読めます。

つまりAIの回答は、来店前に候補が絞られる新しい商品棚になりつつあります。そのため、弊社AI Hackでは、実務として、検索順位表よりも先に「その棚に自社が並んでいるか」を見るようにしています。

エージェンティックコマースの定義と、従来のネット通販との違い

エージェンティックコマースは、人に代わってAIが要望を受け取り、条件に分け、商品を探して比べ、購入の手続きまで進める買い方を指します。ここでいうAIとは、目的を伝えると自分で手順を決めて作業まで行うソフトのことで、これをAIエージェントと呼びます。エージェンティックコマースは、そのAIエージェントの使いみちを「買う」に絞った話だと考えると分かりやすくなります。

このAIエージェントによく似たものが2つあります。1つは、商品ページの右下に出てくる質問受付のチャット窓口です。あれは聞かれたことに答えて人の判断を助ける仕組みで、選ぶのも買うのも人のままです。「送料はいくらですか」に答えるのがこの窓口、「送料込みで一番安い組み合わせで買っておいて」に応じるのがエージェンティックコマース、という違いになります。

もう1つは、各社が整えている共通規格です。これはAIと店をつなぐための共通の決まりごとで、商品データの渡し方から購入手続きまでを揃えるものにあたります。配線を揃える話であって、買い方そのものではありません。

入口の変化は、3つの経路に分けると整理できます。自社サイトに人が来るかどうかと、お金のやり取りがどこで起きるかに注目して見てください。

比較軸

従来:検索して自社ECで買う

AIの回答で候補が絞られてから訪問

AIとの対話の中で決済まで終わる

候補が絞られる場所

検索結果と自社サイト

AIの回答の中

AIの回答の中

自社サイトへの流入

残る

残る(訪問時には候補は数点)

ほぼ残らない

決済が起きる場所

自社サイト

自社サイト

AIサービスの画面内

商品データの提供

任意

出すと扱われやすい

ほぼ必須

計測のしやすさ

従来の解析でほぼ足りる

参照元の判別が必要

自社の解析に痕跡が残りにくい

要点は、真ん中の経路がいちばん多くの事業者に当てはまることです。自社ECを持つ会社は、まず真ん中の列を前提に考えてください。注意点は、真ん中の経路でも訪問前に候補は数点まで減っているため、サイトに来てから挽回する余地が小さいことです。

次の図は、3つの経路で人の動きとお金の動きがどこへ移るかを1枚に並べたものです。

購買の入口3経路と決済の場所の違い

右端の経路でも、売っているのは各事業者のままです。マイクロソフトは、AIの画面の中で購入が終わる形でも販売の当事者は事業者側にとどまる設計だと説明しています(Microsoft「Microsoft propels retail forward with agentic AI capabilities」、2026年1月)。AIに売り場を明け渡す話ではない、と押さえておいてください。私たちは、決済の仕組みを入れるより先に、候補に残れるかどうかが問われると考えています。

AIエージェントが要望を受けてから商品が届くまでの7ステップ

AIは、あいまいな一言を条件に分けてから商品を探します。ここでは「一人暮らし向けの静かな電気ケトルを5,000円以内で」という依頼を、最後まで通して追いかけます。順番は、要望を受け取る、条件に分ける、候補を集める、比べる、在庫と価格を確かめる、支払う、配送と返品に対応する、の7つです。

  1. 要望を受け取る:「静かな」「5,000円以内」といった言葉のまま受け取ります。
  2. 条件に分ける:価格の上限、静音、一人暮らし向けの小さめの容量、という3つの条件に分解します。
  3. 候補を集める:ここでAIが商品ページの文章を読めるようになっていないと候補に入りません。容量や騒音の値が画像の中にしか書かれていない商品は、そもそもAIに拾われません。
  4. 比べる:条件と突き合わせて数点まで絞ります。仕様が書かれていない商品は比較の土俵に上がれません。
  5. 在庫と価格を確かめる:表示が古いと、このフェーズで外されます。
  6. 支払う:事業者のサイトに戻る場合と、AIの画面の中で終わる場合があります。
  7. 配送と返品に対応する:送料や返品の条件をAIが読める状態かどうかは、実は3や4の段階の判断にも効いてきます。

条件に合う候補が集まらないときは、AIは4から2へ戻り、条件をゆるめて探し直します。「静か」を外して価格だけで探し直す、といった動きです。落ちる場所は3と5に集中しやすく、実務ではこの2つから先に潰すようにしています。

下の図は、この7段階と、各段階でAIが見に行く情報の対応を1本の流れにしたものです。

AIが要望を受けてから届けるまでの7段階

主要プラットフォームの現状を「購入がどこで完結するか」で比較(2026年9月時点)

この領域は数か月単位で方針が変わるため、以下は確認できた時点を添えた現在地であり、対応を決める前には各社の案内を見直してください。見るポイントは、決済がどこで起きるかと、日本で使えるかどうかの2つです。

プラットフォーム

商品データの出し方

決済が起きる場所

自社サイトへの流入

日本での状況(時点)

ChatGPT(OpenAI)

商品情報とセール情報を渡す

各事業者の購入手続き

残る

日本の事業者向けの条件は2026年9月時点で確認できず

Google(AIモード・Gemini)

Googleの商品データ登録の仕組み(Merchant Center)に登録

Google側で完結(販売責任は販売者)

減りうる

対象は米国・カナダ・オーストラリア(2026年9月確認)

Microsoft Copilot

決済会社やカート側を通じて連携

Copilotの画面内

ほぼ残らない

米国のCopilot.comで提供(2026年1月)

Perplexity

PayPal加盟店の在庫を利用

回答画面の中

ほぼ残らない

米国の利用者向けに無料で提供(2025年11月発表時点)

Amazon

出品時の商品データ

Amazon内

残らない

買い物相談は日本でも提供(2025年9月)/米国は名称変更(2026年5月)

楽天・LINEヤフー

モール内の商品データ

モール内

モール内で完結

提供中(2026年1月・7月)

決済まで終わる形は米国が先行し、日本では探す・比べる段階が先に来ている、というのが表全体の要点です。日本のEC事業者は、モール(楽天・LINEヤフー・Amazon)を先に、対話型AI各社を次に見るのが現実的だと見ています。

ChatGPT:会話内での決済をやめ、探して比べるところまでに戻った

ChatGPTは2025年9月に会話の中で購入まで進める機能を米国で始めましたが、この機能は日本で導入されないまま2026年3月に廃止が伝えられました(日経クロステック「ChatGPTで商品購入する『Instant Checkout』、もう廃止に」、2026年3月)。

同社はその後、購入手続きは事業者側のものを使ってもらい、自社は商品を見つけて比べる部分に力を入れると説明し、事業者から商品情報やセール情報を受け取る形に切り替えました(CNBC「OpenAI revamps shopping experience in ChatGPT after struggling with Instant Checkout offering」、2026年3月)。決済より手前の勝負が長く続く、と読める動きです。

Google:AIモードから直接購入ができる共通規格を発表

Googleは2026年1月11日に、AIとの会話から商品を買えるようにする共通規格を発表しました。名前はUCP(ユニバーサル コマース プロトコル)で、商品を探す段階から購入後のやり取りまで、AIと店が同じ言葉で連携するための決まりごとにあたります。Google検索のAIモードやGeminiの中の対象商品に購入ボタンを出せるようにするもので、Shopify、Etsy、Walmartなどと共同で開発されました(Impress Watch「Google、AIモードから商品購入するエージェントコマース新規格『UCP』」、2026年1月)。

この購入ボタンの対象は米国、カナダ、オーストラリアの対象商品と参加する販売者に限られています(Google Merchant Center ヘルプ「Google のユニバーサル コマース プロトコル(UCP)と UCP を活用した購入手続き機能について」、2026年9月確認)。日本の店舗がすぐ対象になるわけではない、という点だけ押さえておけば十分です。

Microsoft Copilot:AIとの会話の中で決済まで終わる

米国のCopilotでは、会話の中で購入まで終わる仕組みが2026年1月から使えます。サポートしているのはPayPal、Shopify、Stripeで、注文を受ける当事者は事業者のままという設計になっています。また、Shopifyを使っている事業者は自動で対象になり、追加の手続きは不要とされています(Microsoft Advertising「Agentic Commerce」、2026年9月確認)。

自分の店が知らないうちに対象になっている可能性があるので、カート側の管理画面の設定を一度確認してください。

Perplexity:AIの回答から直接買える機能を米国の全利用者へ

Perplexityは、以前は有料会員だけが使える購入機能を出していましたが、2025年11月にPayPalと組み、米国の全利用者が使える無料の購入機能に広げると発表しました。AI回答からそのまま買える形で、5,000社を超える加盟店の商品が対象になり、注文や返品、問い合わせに応じる当事者はPayPalの加盟店側になるとされています(CNBC「Perplexity announces free product to streamline online shopping」、2025年11月)。

決済会社の加盟店ネットワークがそのままAIの棚になる、という進み方です。

Amazon:買い物相談のAIが検索窓に統合された

Amazonの買い物相談AIは、2025年9月から日本のすべての利用者が使える状態になっています(About Amazon Japan「Amazonの生成AIを搭載した対話型ショッピングアシスタント Rufus(ルーファス)、日本のすべてのお客様が利用可能に」、2025年9月)。

一方で米国では2026年5月13日に「Alexa for Shopping」へ名称が変わり、音声アシスタントと統合されて検索窓から直接質問できる形になりました(ITmedia NEWS「Amazon、ショッピングAI『Rufus』を『Alexa for Shopping』に刷新」、2026年5月)。

価格や商品の比較を助ける機能は米国が先行しており、日本での表示名や提供時期は2026年9月時点で確認できていません。出品情報がそのまま素材になるので、モールに出している事業者は商品ページの記述が判断材料になります。

楽天とLINEヤフー:国内は提案と比較段階のAI導入から開始

国内では、モールの中のAIが先に動いています。楽天は2026年1月5日に、楽天市場のスマートフォンアプリへAIエージェント(同社は「エージェント型AIツール」と呼んでいます)を載せ、希望予算や購入目的を伝えると約5億点の中から商品を提案する形にしました(楽天グループ「楽天、エージェント型AIツール『Rakuten AI』を『楽天市場』のスマートフォンアプリに搭載」、2026年1月)。

LINEヤフーは2026年7月30日に、買い物向けのAIエージェントへ写真から商品を探す機能を加え、同じ商品の取扱店と価格をまとめて比べられるようにしています(LINEヤフー「AIエージェント『Agent i』の『お買い物』に、写真から商品を探せる『ショッピングレンズ』機能を追加」、2026年7月)。

このように、媒体によってAIの組み込まれ方や使い方が異なるため、海外の共通規格に対応するだけでは、国内での露出は取れません。私たちは、世界共通の仕組みと国内モールの中のAIを二つに分けて考えるのが現実的だと考えています。自社ECは前者、モールの売上が大きい事業者は後者から着手する、という切り分けになります。

なぜAIの回答に自社の商品が出てこないのか

出てこない理由は、たいてい商品ページの側にあります。AIは公開されている文章を読んで候補を作るため、読めない情報は存在しないのと同じ扱いになるからです。

候補から外れる4つの原因

原因は、AIからの情報の読み取りにくさ、条件に合致するとAIに認知されていない、根拠にする情報の薄さ、誤った情報の4つに分けられます。

  1. 商品データがAIから読み取りにくい:仕様が画像の中だけにある、価格や在庫が古い、といった状態です。Adobeの調査では、2026年7月時点で、米国のECサイトのトップページの内容のうちAIが読み取れる割合は61%でした(ネットショップ担当者フォーラム「『AI経由の買い物客』は非AIよりもCVRは6割、購買力は53%高い」、2026年8月)。約4割はAIの読み取りに対応できていない計算になります。
  2. 条件で絞られると外れる:価格帯や対象者が書かれていないと、「5,000円以内」「一人暮らし向け」で絞られた瞬間に候補から落ちます。
  3. 根拠となる第三者による情報が薄い:AIは比較記事や口コミも根拠に使います。自社サイトにしか情報が無いと、根拠として選ばれにくくなります。
  4. 誤った情報で語られている:終わったサービスや古い価格が説明される場合があります。生成AIが事実でない内容を出す現象を、ハルシネーションと呼びます。

今日から確認できる3つの手順

順番は、非指名の質問を作る、複数のAIで数回回答の取得を繰り返す、引用元を見る、の3つです。

  1. 自社名を出さない質問で聞く:社名を入れて聞けばAIはほぼ確実に説明してくれるので、判断材料になりません。実際の見込み客と同じく「◯◯向けの△△でおすすめは?」と聞いてください。
  2. 複数のAIサービスで、同じ質問を数回繰り返す:AIの回答は毎回同じになりません。1回出なかったことを失敗と読まないでください。
  3. 回答の引用元を見る:自社サイトか、比較メディアか、口コミかで、次に手を入れる場所が変わります。

私たちは実務として、自社名を出さない質問を設計し、複数のAIサービスと複数回で定点観測しています。そこで見るのは、回答に名前が出た割合、自社サイトが引用元になった割合、何番目に推されたか、そしてどのサイトが引用元になっているかです。

自社EC・モール経由・BtoBで見る場所が変わる

自社ECを持つ場合は、商品ページの仕様、価格、在庫、対象者がテキストで書かれているかの点検が最初の一手になります。モールや代理店を経由して売っている場合は、自社サイトより先にモール内の商品ページとモールのAIでの見え方を見てください。BtoBや無形商材は、決済を代行される場面がまだ少ないため、比較の候補に残るかどうかが論点です。私たちは、この3つのうちどれに当てはまるかで、着手する場所が入れ替わると考えています。

なお、商用のAIは内部の仕組みを公開していないため、ここまでの見方はすべて外側からの観察です。AIが「この商品を選んだ理由」を語ったとしても、それは後から付けた説明として扱うのが安全になります。

エージェンティックコマースをめぐる4つの誤解と、現時点の限界

この分野は動きが速いぶん、誤解も定着しやすい領域です。よく見かけるものを4つ挙げます。決済機能の導入への過度な期待、SEO不要論、AIへの過信、日本での提供状況の4つです。

  1. 決済の仕組みを入れれば売れる:決済はいちばん最後の段で、その手前の「見つけて比べる」に残れなければ到達しません。ChatGPTが会話内の決済をやめ、探して比べる体験へ力を入れ直したのは、その順番を示す出来事でした。
  2. SEOは不要になる:AIは公開されている情報を読んで候補を作るため、読める形に整える作業はむしろ前提になります。変わるのは評価の対象で、検索順位から「回答に引用されるか」へ移ります。この、AIの回答での見え方を整える取り組みをAIO(AI Optimization)と呼びます。
  3. AIが言っているなら正しい:旧価格や終了したサービスが語られることがあります。実務では、ハルシネーションを事故ではなくブランドの毀損リスクとして継続監視する対象に置いています。
  4. 日本でもすぐ全部使える:決済まで終わる機能は米国先行で、日本では提案と比較が先に来ています。日本の消費者調査でも、AIに任せてよい金額の上限は1万円未満と答えた人が63.5%(「3,000円未満」32.8%と「1万円未満」30.8%の合計)でした(ネットショップ担当者フォーラム「AIで買い物をする時代の消費行動とは? 6割がECサイトへの移動に不満、価格の食い違いが摩擦を増幅」、2026年8月)。

いまのAIの得手不得手も、単純です。

  • できること:言葉で伝えた条件から候補を数点に絞ること、価格や仕様、レビューの要点を並べて比べること
  • 苦手なこと:書かれていない情報を補うこと、毎回まったく同じ答えを返すこと

もう1つ、AIが本人に代わって支払うときの代理権や決済まわりの扱いは、日本では整理された形が示されていません(2026年9月時点)。ここは断定せず、論点として持っておくのが妥当だと見ています。

まとめ:EC・D2C担当者が今週中に確認できる3つのこと

やることは、まずAIに聞いてみる、自社の商品ページを点検する、AIからの流入を分けて見る、の3つです。

  1. 自社名を出さない質問で、複数のAIサービスに数回聞いて記録する:出たか出ないかだけでなく、引用元も控えてください。
  2. 商品ページに仕様・価格・在庫・対象者がテキストで書かれているか点検する:画像の中だけに書かれた情報は読まれません。
  3. AI経由の流入を解析ツールで分けて見られるようにする:分けて見えないと、増減に気づけません。

決済まで終わる機能はまだ米国が中心で、日本では「見つけて比べる」段階が主戦場です。だからこそ、いま始めても遅くないと私たちは考えています。自社がAIの回答でどう扱われているかを一度確かめたい場合は、弊社株式会社AI Hackの無料AIO診断(実測)をご利用ください。